『カミロボ』と『ベルリン・フィルと子どもたち』

カミロボというのを先日webで知りました。すごい。
造形師安居智博さんの、長年に渡る一人遊び(紙製のアクションロボットフィギュアによるプロレスごっこ)の成果。
(以下長文)

  • まず見た目に、このロボットレスラー(カミロボ)の、擦り切れて紙がくたくたになって、補修を繰り返してきましたという感じの風合いがすごい。

廃品のボール紙にマジック描きのパーツを針金で繋いであるという物なのだけど、飾り物ではなくて実際に(それもすごく過酷に)使われてきた風格みたいなものがある。私見だけど、玩具は遊んでこその実用品であって欲しいと思うので、こういうのにすごくときめく。

  • カミロボを即興で操る安居さんの、熟練の手つきがすごい。

安居さんの手そのものがとても綺麗なのもあって、つい見惚れます。人形を使った演劇に近い没入感。プロレスの知識がある人は「お約束」が分かるわけだから、もっと没入できるだろうな。

入場テーマ曲も、照明も、三階席までギッシリ埋まった観客もすべて「イメージで補う」っていうか。今映像で見えているモノがすべてではないですね。公式サイト

私はプロレスの事はよく知らないけど、ファミコンのゲームなんかをイメージで補いながら遊ぶのが好きな、一人遊び大好き人間なので、安居さんの脳内でどういう事が起こってるのかは、すごーく分かります……。

  • 舞台になっている架空のプロレス界の設定の練りこまれ方がすごい。
  • そしてその設定が、長年掛けてリアルタイムで進行してきたもので、半分は事実だっていうところがすごい。

カミロボは出来立て(デビュー前)は動き方も未知数だし、まだ体も出来てない(紙や針金が堅い)し、キャラクターもあやふや。
「とりあえずこういう役で使ってみるか」とデビューさせてもらって、ぎこちない試合を重ね、負傷(紙製なので試合中に腕が千切れたりする)やアクシデントを経験し、レスラー同士の因縁を作ったり、試合中に必殺技を編み出したりしてドラマを積み重ねていくうち、キャラが立ってきて、体も出来て(使い込まれていい感じに柔らかくなって)きて、レスラーとしての風格が出てくる……という事を、現実にやってるのがすごい。
一体一体作りが違うので動きに個性があって、雑魚のつもりが「思ったより動きがいいから」別の団体に移籍させた、なんていう話があったり、古参レスラーはほんとに古参で、最古参のカミロボは小学生の頃に作ったものだとか。(中高生の間6年のブランクがあるそうですが、それはそれでドラマですよね。)

安居さんはプロレスのベタな娯楽性(ヒーロー・悪役・大物・小物・友情・結束・裏切り・因縁の対決、等等)を再現する事にも熱心なので、誰に見せる為でも無いすごく個人的な世界なのに、すごく大衆娯楽的で、全然内省的じゃない群像劇が出来上がっていて面白い。


子供のごっこ遊びから始まってるカミロボは、もちろん子供に大人気。(プロレスファンの大人にもたぶん人気。)強くてかっこいいロボットが作れる安居さんは、男の子たちのヒーローです。
プロデューサーが広告業界のひとだからか、派手な興行を打ったり、アートとして売り込んだりと商売っ気たっぷりなのだけど、安居さん自身は物静かで謙虚そうな職人風の方で、子供達に作り方を教えたり、作品を見せ合ったりという事を、すごく素朴に楽しそうにされているのが印象的でした。


ベルリン・フィル〜』の方は、一流の芸術(音楽と舞踊)家達が、子供達の教育事業に取り組むという、ドイツのドキュメンタリー映画
ベルリン・フィル芸術監督のイギリス人指揮者“サー”サイモン・ラトルが、ベルリンに住む子供達のバレエと、ベルリン・フィルの共演を計画、成功させた、その舞台裏。ラトルさんは「子供はあらゆる層のあらゆる国の出身者から選ぶ(ドイツは移民がとても多い)」とぶち上げるが、実際にその子供達を鍛え上げる大変な役は、これもイギリス人の高名な振付師ロイストン・マルドゥーム達にお任せなのだった。いろいろな問題を抱えた難しい年頃の子供達と、粘り強く格闘するロイストンさん達。その間ラトルさんは優秀なベルリンフィルの面々相手に指揮棒を振っていて、ひたすら楽しそう。
こちらは、巻き込み型のカリスマ(ナイト称号持ち!)夢想家と巻き込まれた実務家のいいコンビ、という風にも見えます。


演目は『春の祭典』。地から沸き上がる様な音楽に合わせて、250人以上の子供達が舞台にひしめき合う様子は、素人目にもすごい迫力。
自分に自信の持てない子供達がだんだん変わっていく姿はとても感動的だし、ロイストンさんやラトルさんの言葉はどれも力強くて、示唆に富んでいる。希望に満ちた素敵な作品です。

ベルリン・フィルと子どもたち コレクターズ・エディション [DVD]

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